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水曜日の映画館

週の真ん中にほどよく心地よい映画を届ける連載企画、第1回「希望の灯り」。

水曜日の夜は静かに過ごしたい。平日が始まって、慌ただしさに慣れながらも、少し疲れがたまりだす時分。誰かと会ったり、どこかへ出かけたりするのも良いけれど、週末まであと2日あることを思うと、のんびり過ごすのも良いアイデアな気がしてきます。

ここは、そんな水曜日の夜にゆっくり観るのに向いた映画をおすすめする、App Storeのストーリーです。さしづめ「水曜日だけの静かな映画館」とでも言いましょうか。もしも映画が気になる内容だったら、チケットを買う代わりにアプリの中で、どこでもあなたのリラックスできる場所で映画鑑賞を楽しんでください。

紹介するのは特に最新のものや流行りのものではありません。App Storeのエディターが独断と偏見で選んだ、“水曜日の夜に合いそうな気がする”映画です。毎月1回、新しいラインナップに切り替えながら、その映画にまつわることを、そこはかとなく書きつづっていきます。

ドイツの主要都市の一つ、ライプツィヒは国際ブックフェアが開催されることでも有名な文化都市です。1989年11月9日にベルリンでドイツの壁が28年ぶりに壊され、1990年に統一される以前、ライプツィヒは旧・東ドイツ地域でベルリンに次ぐ主要な街の一つでした。

「希望の灯り」は、現代のライプツィヒを舞台にした映画で、2019年に公開されました。巨大スーパーマーケットの在庫管理係として働き始めた青年クリスティアンとその同僚たちの目を通して、かつての東ドイツ地域の街で生きる人々の日常が描かれます。

やせた体に首まで入ったタトゥーを制服で隠す無口なクリスティアン。同僚たちは互いに多くは聞かず、時々垣間見える断片から互いを思いやりながら、ただ静かに、文字通り陽の当たらないスーパーマーケットの倉庫での深夜業務生活をこなしていきます。

冒頭、営業時間が終わり、客がいなくなった店内で、在庫補充のためにクリスティアンたちはフォークリフトを動かします。客用の灯りが落ちた暗がりの中、作業スペースだけに残された照明をスポットライトのように浴びて、ワルツを踊るように旋回するフォークリフト。その動きは、日常のふとした瞬間にも、奇跡のように美しい刹那が隠されていることを垣間見せてくれます。それは、統一されて35年が過ぎようとするドイツで、置き去りにされたいくつもの小さな人生の中で、彼らが交わす、言葉少なで不器用なやさしさと同じ美しさのようでもあります。

日常の中で少しずつ変わっていく関係性。誰かの中で積み重なっていったもの、その小さな変化のすべてに気付くことは難しいものです。人は言葉にするよりも、あまりに多くの想いを抱えています。選ぶ服や家にも、繰り返すしぐさにも、語られる過去にも、何より言葉を止めた後の静寂に、それは現れていたのかもしれない。あらがえない時代の大きな流れとの折り合い。あるいは、言葉をかけるタイミングだったのかもしれない。そのすべての真意を、流れる刹那に正確に読み解いていくのはあまりに難しい。それゆえ人は後悔し、もっと何かできたのではないかと自問してしまいます。けれど、常に人が下す選択は、その瞬間、その人にとって最良のものだと肯定することで、また別の見え方が生まれるのかもしれない。

資本主義社会の大量消費を支えるスーパーマーケットの倉庫。不必要な量の照明を落とした後に浮かび上がる灯の耀きが、美しい映画です。


映画が体験させてくれる数時間の別空間を楽しんだら、今日もゆっくり休んでください。今週の水曜日もお疲れ様でした。