「この家こそ、私が本当に暮らしたい場所だ」と、クリスチャン・ディオールはかつてラ コル ノワールについて記している。「神が私に長い人生を与えてくださるなら、いつの日かここで隠居生活を送りたい」
そう思うのも無理はない。
もし、運よくラ コル ノワールを訪れる機会に恵まれたなら、おそらく誰もが同じように感じるだろう。19世紀に建てられ、1950年代にディオールが丹念に修復したプロヴァンス様式のシャトーは、広大な敷地に佇む、実に見事なものだ。まず迎えてくれるのは、床に敷き詰められた小石がバラの羅針盤を描く、八角形のエントランスホール。そこから先には天井の高い部屋が続き、アンティークとプロヴァンス地方のテキスタイルで満たされた空間は、こぢんまりとしていながらも静かな風格を湛える。一見すると何気なく見えるそのエレガンスも、実際は多くの手間と時間を費やして生み出されたものだ。
庭園にはオリーブや柑橘類の木々の間にバラやジャスミン、スズランが咲き、敷地の中央には全長45メートルのリフレクティングプールが広がる。シャトーの姿を鏡のように水面に映し出すことから「Mirror of Water(水鏡)」の名で親しまれているそれは、息を呑むほどに美しい。世界で最も美しい邸宅のひとつとされているラ コル ノワールは、ディオール(DIOR)のレガシーと密接に結びついている場所だ。ディオールが1947年、約80年も前に発表したメゾン初のフレグランス「ミス ディオール」も、ここプロヴァンス地方からインスパイアされている。それだけに、「ミス ディオール」の最新キャンペーンの解禁に先駆けて、その顔を飾るナタリー・ポートマンを取材するロケーションとしては、この上なく相応しい。
進化する「女性らしさ」を受け継いで
ポートマンは、ディオールのアンバサダーを10年以上もの間務めている。もう間もなく臨月を迎える彼女はこの日、ブルーとホワイトのディオールのベビードールドレスに、しっかりと高さのあるヒールを身につけて現場に現れた。妊娠中にもかかわらずヒールを難なく履きこなすあたりは、さすがは『ブラック・スワン』(2010)でプリマを演じ、アカデミー賞主演女優賞を受賞した俳優だ。
あたたかく、思いやりがあり、人を惹きつけるポートマンは、こちらの質問にただ答えるのではなく、会話のキャッチボールをすることを好む。そこがまた魅力的で、相手に好感を抱かせる。そして、由緒あるメゾンの顔を長年務めてきた人特有の余裕と自信に満ちている。昨今のファッション業界は、以前にも増してアンバサダーをまるで一過性のトレンドのように扱うようになってきた。あるシーズンはもてはやし、翌シーズンには別の人を起用する。その交代劇はときに静かに、ときに公然と行われる。それを思えばポートマンはある意味異例の存在だが、彼女が慢心している様子は一切ない。
「ディオールというメゾンと『ミス ディオール』という香水が持つ気品とレガシーは、私が生まれる前からずっと受け継がれてきました。その歴史の一部になれたことを、今も変わらず幸運に思っています」とポートマンは言う。そして、自身とメゾンの関係は、もはや従来のアンバサダーとブランドの関係を超えたものになっていると強調する。
「ディオールの物語の一員になれたことは、私にとって本当に特別なことです。なぜなら、長く続く関係には、ともに過ごした年月や積み重ねてきた経験から生まれる、特有の美しさがありますから。それが良好な関係であれば、なおさらです」とくすりと笑いながら続けた。「メゾンの舵を取っている女性たち、デルフィーヌ・アルノーとヴェロニーク(パルファン クリスチャン ディオールのCEO、ヴェロニーク・クルトワ)は、私の人生における大切な友人になりました。会うたびに、まるで家族が集まっているような気持ちになるんです。そこには確かな絆と居心地の良さがあります。これは、本当に大切なことだと思います。特に女性にとっては」
その考えは、いかにもポートマンらしい。彼女はかねてより女性の権利を積極的に訴えてきており、「ミス ディオール」自体も、フランスのレジスタンス運動に参加していたディオールの妹、カトリーヌにインスパイアされた香水だ。第二次世界大戦直後に誕生した「ミス ディオール」は、「人々に希望と生きる喜びを取り戻してほしい」という願いから考案され、80年近くが経った今も、そのメッセージは少しも色褪せていないとポートマンは感じる。
「私にとってこのフレグランスは、暗闇の中でも希望と美しさを見出し、生み出すという、ディオールのレガシーそのもののように感じます。第二次世界大戦を振り返ると、あれほど暗い時代はなかったと思います。でも、私たちは今も、とても困難な時代を生きています。それが将来、どのように振り返られるのかは、誰にもわかりません。なので、世界の破壊的な側面ばかりに目を向けるのではなく、美しさや喜び、人間が創造できる素晴らしいものの数々を讃えることは、今この時代において、とても意味のあることだと思います」
「ミス ディオール」が誕生した1940年代と現代には通ずるところがあると認めつつも、ポートマンはひとつだけ、大きく進化したと感じることがある。それは、「女性らしさ」という考えそのものであり、当初から「ミス ディオール」の核心を成してきたコンセプトだ。「『女性らしさ』は絶えず進化し続けるもので、その概念に共感する人たちが、それぞれに解釈できるものであるべきだと思います。もちろん、社会は私たちにさまざまなステレオタイプを押し付けようとします。でも、新しい世代の人たちを見ていると、『女性らしさ』という言葉やその定義を、自分なりに解釈してもいいのだと気��かされるんです。それは、本当の意味での自由と解放なのだと思います」
「自由」と「解放」は、この日の会話を通底する、言わば隠れたテーマだ。実に知的なテーマではあるが、私たちは気後れすることなく、香りが物語において果たす役割(ポートマンはジョン・ウォーターズが映画『ポリエステル』(1981)のために制作した、こすると香りが出るカードを興奮気味に引き合いに出した)からレベッカ・ソルニットのエッセイ集『No Straight Road Takes You There(原題)』まで、ありとあらゆることについて語り合い、話題が尽きることはなかった。
「本当に素晴らしい本です。ソルニットは本当に優れた書き手ですよね。あの本は、突き詰めれば『希望を持つこと』について書かれています。でも、ポリアンナ(エレナ・ポーターの小説『少女ポリアンナ』の主人公)のように、極端に楽観主義なわけではないです」
「『ミス ディオール』は、女性として『こうありたい』という姿と生き方を見せてくれる」
熱心な読書家として広く知られているポートマンは、2021年に自身のブッククラブを立ち上げた。最近読んだ本の中で特に気に入っているのは、レナ・ダナムの回顧録『Famesick(原題)』だという。「一気読みしました」と彼女は目を大きく見開く。「すべてを包み隠さず綴った、とても懐の深い1冊でした。人間関係などについての本は、誰かしらが悪者のように描かれてしまっていることがありますよね。でもこの本では、すべての登場人物がとても人間らしく描かれている。誰も嫌いになれないし、人は誰しも欠点だらけで、面倒なことに巻き込まれながらも生きているということを思い出させてくれるんです」
とはいえ、いつ何時も落ち着き払ったポートマンが、人間関係のゴタゴタに���き込まれているところは、到底想像できない。彼女は俳優、プロデューサー、母親、起業家、アンバサダーと、多彩な顔を持つ。そしてこの日は「ハイヒールを颯爽と履きこなす、スタイリッシュな妊婦」でもあった。そのすべての役割をいとも簡単に同時にこなす。
それを聞いた彼女は笑った。「私が知る女性は、みんなそうだと思いますよ。みんな、いくつもの役割を担っています。今目の前のことをしながらも、頭の中では次にやるべきことを考えている。誰だってそうだと思いますが、特に女性に言えることだと思います。たとえ子どもを持たなくても、女性は世話をする役割を引き受けることが多いです。親や兄弟姉妹、友人の面倒を見ながら、自分の仕事や好きなことに打ち込み、人としても成長しなければならない......。これほど多くの役割を担えることは、とてもありがたいことです。でも、たまに気が狂いそうになります!」と笑い出した。「人生って、本当にいろいろありますから!」
無論、「ミス ディオール」にはある種のファンタジーがある。ロマンティックで、希望と可能性に満ちた幻想的なファンタジーの世界を持つが、ポートマンはそれに深く共感する。「理想や憧れの上に成り立っているものではありますが、同時に女性として『こうありたい』という姿と生き方も見せてくれます。情熱を持ち、目を輝かせながら人生と向き合い、自由で、自立していて、美しく、そしてロマンティックな生き方を。そしてその根幹には、ある種の理想があると思うんです。その理想や情熱、世界への好奇心を持ち続けることができたなら、それこそが、人生をいつまでもわくわくするものにしてくれる究極の鍵なのだと思います」
Text: Funmi Fetto Adaptation: Anzu Kawano
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