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水曜日の映画館

週の真ん中にほどよく心地よい映画を届ける連載企画、第2回「午前4時にパリの夜は明ける」。

今週も水曜日がやってきました。水曜日の夜は静かに過ごしたい。誰かと会うよりも今日はのんびり家で過ごそうか、という気分の時におすすめの映画を、今月も紹介します。

この「水曜日の映画館」では、特に最新のものや流行りのものに限らず、App Storeのエディターが“水曜日の夜に合いそうな気がする”と思う映画を独断と偏見で選んでいます。もしも映画が気になる内容だったら、チケットを買う代わりにアプリの中で、どこでもあなたのリラックスできる場所で映画鑑賞を楽しんでください。

毎月1回、新しいラインナップに切り替えながら、その映画にまつわることを、そこはかとなく書きつづっていきます。

連載第2回:「午前4時にパリの夜は明ける」

映画が始まると、人は自由に時空を旅します。「午前4時にパリの夜は明ける」は、まさに、タイムスリップして1980年代のパリを生きるために作られたような映画です。80年代のパリの映像そのものが映画の中に組み込まれています。今では存在しない街並みの中に、プラスチックで宇宙を目指すようなプロダクトデザインが現れ、未来感のある幾何学模様と強めの色使いの服を着た人々が行き交います。あの時代の、埃っぽい大通りのにおいが鼻の奥をかすめるかのようです。

深夜放送のラジオ番組が、物語に寄り添う存在として登場します。1980年代のパリの夜は静かで、密やかな空気に包まれています。必要最低限の人だけが稼働している深夜に、眠らない、あるいは眠れない人々が、誰でもない誰かとのかすかなつながりを深夜ラジオの番組の中に見いだしていました。

長い結婚生活に終わりを告げられたエリザベートは、成人を迎える手前の2人の子どもを育てるため、仕事を探すことになります。働いた経験なくして家庭に入り、専業主婦だったエリザベートは、キャリアのない自分自身に無力感を覚えています。そんな彼女を迎えてくれたのが、深夜放送のラジオ番組の制作部でした。

ある日、エリザベートは番組に投稿してきた10代の少女、タルラと出会います。収録が終わり、ラジオ局の建物を出たエリザベートは、底冷えする石畳の街路脇のベンチに座るタルラを見つけます。行き場のないタルラを、エリザベートは自宅へ連れて帰ります。

人生において、関係性を作っていたバランスが突然の不在で崩れた時、それを乗り越える力が自分にはないように思えることや、同じ境遇を共有している人たちとの心の距離感がわからなくなることがあります。失われていくものばかりに目がいって、悲しみのフィルターを通してしか世界を切り取れなくなることもあるかもしれません。

ポジティブな魔法使いが突如現れて、特別な方法で才能を引き出してくれたり、白馬に乗った王子様が一夜にしてすべてを解決してくれたりすることは、現実にはありません。そういう幻想を美しく見せてくれる作品も多くありますが、「午前4時にパリの夜は明ける」はもっと人生の複雑な美しさそのものを描こうとしています。

私たちの人生は、解決の瞬間だけが輝いているわけではない。連続の中で、もがき、ぶつかり、探し、気づき、また自分に絶望し、出会い、許し、すれ違いながら愛そうとするその中で、いつの間にか以前は越えられなかった何かを乗り越えていたり、自分や誰かを想う力を取り戻したりしていきます。「午前4時にパリの夜は明ける」は、移ろう時と景色の中で、同じく変わりながら輝くエリザベートたちの7年の歳月を、一歩引いてカメラに記録したような作品です。

映画が体験させてくれる数時間の別空間を楽しんだら、今日もゆっくり休んでください。今週の水曜日もお疲れ様でした。